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2020年マスククロニクル(その1)

 どんどん状況は変化し、記憶は薄れていく。マスクをめぐる状況変化を時系列でまとめておきたい。 その2(5月連休明け)へ

3月中旬~下旬

 3月中旬、関西のスーパー「イズミヤ」が50枚3980円のマスクを販売して話題になった。ここまで読み進まれた皆様はお気づきと思うが、メルトブローン不織布が取り合いになり、その相場が数十倍になっているために、マスクの製造原価も上がったのである。1枚80円と言う価格は、例えばシャープが4月21日に打ち出した60円よりは高い。その理由は想像するしかないが、まだ不織布の品薄感(=原価高)、輸出許可の不確実性があって、当時はこれが精いっぱいの価格だったのではないか。

 ただこの事件で、ふだんマスクを売っているドラッグストアやスーパーは、悪評を恐れて、同様のことができなくなった。通販業者も同様で、マスクを継続的に売って行きたい業者は評判が怖かったであろう。短期的には、「大儲けさせない圧力」をかけた消費者が、「高値でも買いたい消費者」を邪魔した格好になった。その後の展開を考えると、日本の消費者が得をしたかどうかは難しいところで、国際的な時価が払えない買い手は「買い負けて」帰るしかないのが市場経済である。エビやマグロのいいものが某国に買い負けてきているのはよく指摘されるところである。ともあれ、時価で輸入マスクを売る販路は実績の少ない通販業者のほか、ウィークリーショップ、洋品店などで少量ずつの扱いと言ったゲリラ的なものに当面限られた。

 このころ、そうした販路で売られるマスクはウレタンマスクや布マスクが多かった。

 4月5日国務院記者会見に税関総署総合業務司の金海(Jin Hai)司長が出席し、3月1日から4月4日までの間に中国はマスク38億6000万枚を輸出したと述べた。日本ではAFPが報じている。すでにこのときの記者会見で、品質問題が話題になっている。

中国のマスク輸出量が38億枚超に、品質の保証にも尽力(AFP) https://www.afpbb.com/articles/-/3277488

 つまり、世界全体に対して中国は大量のマスクをすでに売り始めていたはずである。おそらく中国は戦略的に、当時猛威を振るっていた欧州へと重点的にマスクを売ったのではないか。そして、日本ではあまり表面化しなかった不良マスク問題を欧州各地で起こしたのではないか。

 イズミヤに来るくらいだから、日本に輸入不織布マスクがなかったはずがない。3月27日のテレビ朝日の番組で、新大久保の店舗2軒でマスクが売られていると取材レポートがあったようである。おそらくその2軒のうちの1軒を26日に見つけたらしいブログ記事がまだ見つかる。だが、この時点では探す必要があった。

米国の急展開

 4月初旬、トランプ大統領はアメリカ最大手の不織布メーカーであり、マスクメーカーでもある3M社を罵倒するツイートをした。ようやく議会が緊急予算を認めたと思ったら、思った量のマスクが買えないことに気が付いたようなのである。どうしてかはこのページで解説した。カナダやラテンアメリカとの契約に基づいて供給しようとした分までアメリカ政府が取り上げようとして、それをしない代わりに、世界からマスクの売り手を探す責任を3Mに負わせた。

 4月5日、米国のFDAは中国の防塵マスク規格であるKN95を、純正品だと確認するなど限定をつけて、N95マスクの代替品として緊急使用許可する通知を発した。日ごろの仲は棚に上げて、とにかく世界で買うのだということである。そして中国は輸出拡大がかえって悪評をまくことへの対策に入った。

中国、マスク輸出外交に綻び 粗悪品多く許可制導入(4月17~18日、日経) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58219510X10C20A4EA1000/

 これに関連してのことか、WHOと並んで「一般人にマスクは無用」と指導してきた米国CDCが、「(無症状感染者もいるので)みんながマスクをした方がよい」と言い始めた(「布マスクの効用と限界」参照)。ただし布マスクでよいと。教育ビデオではTシャツの腹のあたりを帯状に切れと指導している。

アベノマスク間奏曲

 ガーゼマスクを含む布製マスクは、3月中旬から順次到着し、いろいろな基準で少しずつ配られた。介護施設に配られたものは「利用者にも配る」よう指示されていたらしく、Twitterなどに画像も上がった。

 ちょうどこのタイミングで、上記のCDCの「布マスクでいいからつけろ」という指示が広がった。どれくらい日本で話題になったかはマイソフの観測範囲が特殊すぎてよくわからない。ご存知のように、ここから不良品問題が派生して配布は遅れた。しかし米国、そして欧州諸国が「布マスクでいいからしろ」に意見を変えたことで、不織布マスク以外のあらゆるマスクが一気に社会的に許された印象がある。

 もちろん多くの日本人がいろいろな機会に聞かされてきたように、布マスクは自分を守る役には立たないが、人にうつすことはかなり防げる。そういうものである。ついでに言えば、医療用のサージカルマスクはマスクの上下左右がぴっちり閉まらないので、空中のウイルスへの備えとしてはスキがある。

 話を戻すと、この時期を境に量産品の布マスクに加え、手作り布マスクを販売する業者が増えた。そしてマイソフ宅の近所に、9日だったか10日だったか、不織布マスクも現れ始めた。8枚1000円であった。先ほど新大久保という地名を出したけれども、首都圏には数カ所、中国人と縁の深い地域がある。そのひとつが数km先にあるのがマイソフ宅である。

 ちょうどそのころ起きたのが3億枚事件である。いやこう呼んでいるのはマイソフだけだが。

3億枚事件 (4月11日)

4月11日に発出された孫正義氏のツイッターが要点を網羅している。 https://twitter.com/masason/status/1248929312775921666

 「出来ました。世界最大マスクメーカーBYD社と提携し、SB用製造ライン設立。5月から納品、月産3億枚 (医療用高機能N95を1億枚、一般用サージカルを2億枚) 。政府マスクチームと連携を図り、医療現場をはじめ、一人でも多くの人々にSBは無利益でマスクを供給します。」

医療関係者などに向けたマスク月3億枚の供給について(ソフトバンクグループ株式会社)  https://group.softbank/news/info/20200413

 特定製品の輸入が善であるとか悪であるとか、それが御法度の品でない限りマイソフは特に意見を持たない。コメの輸入は悪で実習生の輸入は問題ないというものでもなかろう。ただ基本的に、日本は消費するマスクの8割ほどをもともと輸入していたのだから、いずれは(価格も元に戻るのと並行して)中国産マスクが大量に日本市場へ戻ってくると考えるのが自然である。

 まずBYDはリチウムイオン電池、それを使用するハイブリッドカーや電気自動車を主力商品とする。連結年商は3000億円台前半。3月13日、BYD社は「日産500万枚」のマスク工場が稼働したことを公表した。プレスリリースによると、マスク生産機械の自社生産によって、なお生産規模は1日に30万枚~50万枚のペースで拡大しているという。

http://www.byd.com/en/news/2020-03-13/BYD-Unveils-World%27s-Largest-Mass-Produced-Face-Masks-Plant

 不織布をどう調達したかは書いてないが、別のサイト(電気自動車やクリーンエネルギーの情報サイト)によると、(トヨタと同様に)カーエアコンやカーオーディオに使われる不織布を流用できるのだということである。

https://cleantechnica.com/2020/03/29/carmakers-to-the-rescue-n95-mask-mass-production/

 それにしても、3月中旬に月産1億5000万枚を達成した工場が設備増強を続けたとはいえ、4月11日時点で月産3億枚を約束するというのである。生産能力の大半を日本市場に張り付けるということではないか。そしてさすがに不織布調達において、かなり無理をして買い集めないといけない生産量ではないか。

 逆に言えば、マスク業界の新参企業がこの巨大な生産量を、不織布の相場上昇を織り込んだ時価で売り込める相手はそうそういない。おそらく「SBは無利益で」取引するとしても、流行前の価格と言うわけにはいかないのであろう。そして「5月から」というのは欧州・米国の需要一巡や、中国での終息継続を念頭において、「そろそろだぶつく懸念があるタイミング」なのではないか。

 BYDはすでにカリフォルニア州政府とも商談をまとめた。BYDの工場がある州である。

California to purchase masks from Chinese EV maker BYD https://asia.nikkei.com/Spotlight/Coronavirus/California-to-purchase-masks-from-Chinese-EV-maker-BYD

 ところがアメリカにとって、BYDは必ずしも好ましい企業とはみなされていない。

反中色強める米国、中国BYDの電動バスを公共交通から排除 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191213-00031261-forbes-int

 いまアメリカがいくらでも欲しいN95マスク(3億枚のうち1億枚)を、アメリカから見て微妙な先から、日本がドカッと買ってしまう。もちろん中国政府がその戦略物資輸出を認めることがすべての前提であって……いろいろ思惑が乗っかっていそうな案件である。

 4月12日だったと思うが、このことをこのページで評した私は「多少高くても買うべきではないかと思う。そして医療現場に余裕ができたら、日本企業のマスクをいくらか在日米軍などに提供すればいいのではないか」と書いた。

 4月13日、ソフトバンクグループの巨額な前期赤字が公表された。そして「政府マスクチームと連携を図り」と孫氏は発表したが、政府側から呼応する発表はついにないままであった。

 政府はマスクなど医療装備の国内生産、少なくとも日系企業による海外生産を推進する構えを崩さない。むしろ2月以降今まで、日本企業に求めてきたことを考えれば、日本政府としては今更国際的時価になったマスクを買うわけにもいかない気持ちはわかる。政府は暗黙の裡に、時価でマスクなり不織布なりを世界にうっばらうことを禁じてきたわけだから、外国企業にだけ時価を払うのも難しい。

首相「売れ残れば買い上げ」 企業に医療装備増産促す(日経)  https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58089260V10C20A4MM8000/

 一方、地方自治体は日本政府からの供給に満足してもおられない立場である。地域のマスク不足への対処を国会議員などが扱って、高額な価格が問題視されている例もある。

「大量に確保」原田前環境大臣がマスクの高額販売をあっせん(文春オンライン)  https://news.yahoo.co.jp/articles/55bbd84f03628d3c89cac6d0293098725fc692fd

 おそらく上記記事の価格は、1月以来中国で取り合いになって高騰した不織布価格を前提とすれば、おおむね時価ではないかと思われる。繰り返しになるが、いま買えばこの値段であり、5月末くらいまで我慢比べをすれば元の価格のマスクがだんだん増えてくる。もちろんそれをにらんで、在庫の投げ売りも始まるであろうが。

 だから大阪府の吉村知事は真っ先に商談に前向きなコメントを孫氏の発言につけたし、マスクに限らず防護衣など様々な医療防護具の仲介を打診する首長は多かった。短期的なつなぎを孫氏であれ誰であれ、輸入に使えるコネクションのある人物や企業に打診するのは合理的だと思う。ただ「5月に納品するマスクを4月に発注する」というのは、世界で進むメルトブローン不織布の増強生産設備は早いものでは5月末に稼働するのだから、高物買いのリスク(買い手にとって)が大きい話であった。

シャープの衝撃と下がりの始まり(4月下旬)

 4月19日、まだマスクは100円でも売られていた。

マスク100円「高くない」 世界で争奪戦、高騰不可避?―露店販売者が現状語る(時事ドットコムニュース) https://www.jiji.com/jc/article?k=2020041800271&g=eco

「街頭で販売されるマスクの価格は不織布タイプで1枚100円前後が多く、新型コロナ感染拡大前の10倍ほど」「時事通信が入手した大手商社や卸業者の輸入マスク発注書に記載された仕入れ価格でも、1枚当たりの相場は35~60円台。100円の販売価格が高過ぎるとは言い難い」というのがこの時点の状況だった。

 ところが計ったように翌日の4月20日、シャープは50枚2980円(税別、送料別)という個人向け価格を発表した。1枚60円弱である。

シャープ、50枚入りマスクを税別2,980円で個人向けに4/21販売開始(価格.com 新製品ニュース)  https://news.kakaku.com/prdnews/cd=kaden/ctcd=2182/id=93685/

 これに路上販売のマスクが一斉に対応した。マイソフ宅の近所では、1枚100円はかろうじて10枚以下の小口不織布マスクに限られ、50枚箱だと1枚当たり税込70~75円が普通になった。つらい。他人事だが辛そうである。赤字処分の店もあろう。

 こういうものの価格は、「秋葉原価格」のような一番安い場所の相場がまず形成され、そこから遠くなるといくらか高くなることが多い。そして需要と供給の全体的な事情で、地域差を残したまま全体が上がったり下がったりするのである。5月連休にかけて、全体が50枚3000円のシャープ価格に近づいてきていることを感じるが、まだ割り込む例はほとんどない。

 いろいろ買ってみたのだが(洋書の積読と同じで、新しい検査票欲しさに、200枚以上マスクを買ってしまった。布マスクの作り方を覚えたのに台無しである)、輸入元が箱のデザインに手を入れたり、ときには日本国内で性能テストを依頼して結果をHPに載せていたり、百花斉放の自由競争が進行中である。中にひとつだけ3月の生産品があり、箱がなく50枚袋売りで、店に小さく「イベント中止による処分品」と書いてあった。たぶん緊急事態宣言が出される前、大規模イベントの参加者に配るため、当時の時価で主催者が買っていたものなのであろう。

詳しくはこちら

 ケッサクなのは、紙製品を主力商品とする某社で、社名でググったら中国と台湾で1回ずつ、製品のティッシュペーパーが品質基準に達しないと社名公表処分を受けていた。1回は引っ張り強度不足、もう1回は表示された重さに足りないというものである。見たところ特に問題はないようであった。

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Last-modified: 2020-05-20 (水) 08:41:01 (164d)