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ミリヲタと関連市場に関する論点整理

記号消費と「おたく」像

 自分が自分らしくあり続けるためにお金と時間を使う。それがおたく像であるとしたら、そうした行動はもっと普通の人も普通にするものとして、昔から論じられています。例えばボードリヤールに端を発する記号消費論。最初にフランスで論じられたときは日本はまだまだモノに飽いていない時期でした。1980年代に入り、ちょうどバブルが膨らみ始めて日本絶好調な時期でもありましたが、ようやく日本は「ニーズを作り出さないと売れない」時代に入りました。個性のアピールを促して何とか購入につなげられないかと、ニッチに入り込むというより「自分らしさ」を誰もに探させるような多品種化が進みました。「田中くん」スナックもそんな時代の落とし子です。

 ここでは徹頭徹尾、売れる売れないといった「市場の話」をします。それに意味があるかないかは、特定の趣味に意味があるかないかと同様に、受け取るひと次第です。その話はしないことにします。

 おたくによる生産のほうは脇に置いて、おたくの消費に限って言えば、それはそんなに特別な物とも思いません。人と違った格好をする人たちを古来オタクとは呼びませんでしたが、そういう人たちの多くは変わりものとして記録もされず、ごく一部がファッションの歴史を作ってきたのだと思います。好きだから買う。買えるものなら買う。好きでも買えなければ買えない。それは特別なことじゃありません。

 いや、むしろ「特別」というのは世間のスタンダードに対する相対的な概念ですから、世間が変われば特別さも変わるのです。自分たちは同じことをやっているつもりでもね。そのへんも語っていきたいと思います。

「お前は今日まで一年間にグッズに使った合計額を覚えているのか?」

 総務省の家計調査は宇都宮が餃子消費額日本一になったとか、浜松市が政令指定都市になって別集計の数字が出るようになったので取られたとか、最近奪回したとかいう数字争いの舞台になっている調査です。調査対象になることを承諾すると、なにがしかの謝礼をもらって家計簿を詳細につけさせられるのだそうです。これくらいだとグッズ代を半年分合算することも可能でしょう。

 2012年度音楽メディアユーザー実態調査報告書のためのアンケート調査は、4948人(回収後に地域などのバランスを取ったようで、実際の回収数は一般用の刷り物ではわかりにくいのですが)にインターネットで答えてもらったもので、いきなり「過去1年間にライブ・コンサートに使ったお金」などを尋ねています。だから金額をどこまで信用してよいか迷いますが、いちどでも行った人だけを集計すると、1年間に

  • チケットに16670円
  • 会場での関連商品グッズに5982円
  • 会場でのCD・DVDに1519円

 を支出しているという平均値だったそうです。

 たぶん調査計画者は、「ライブでの手売りが重視されているとよく言われるので、消費者も主にライブでCD・DVDを買っているんじゃないか」という仮説を持っていたのでしょう。ここははずれました。報告書ではちょっと強弁していますが、ライブに来る人も「CD購入場所(利用している・いないを問うて「利用している」人の比率を出したものか?)」としては店舗やインターネットのほうをずっと多く挙げています。しかし特に60代は他の年齢層に比べて、ネットや店舗を挙げる率が低く、ライブでの購入を挙げる率が高くなっています。

 ライブという特別な場所を設定することで普段の節約感覚を絶ち、普段はしない散財をさせてしまうのは行動経済学ないし心理学で「フレーミング(厳密にはリフレーミング)」と呼ばれる現象を利用した商法だと思います。今までの「ファンならCD買ってね」という(マスメディア露出と組み合わせた)物販中心のビジネスモデルが崩れてきたので、相対的に堅調なライブを収益源とするビジネスが見直されてきています。もちろんみんな一斉に見直したので、限られたパイの食い合いも同時に生じているようですが。

 あくまで上の話は、音楽ファンの中でライブ・コンサートに抵抗なく参加する人たちの話です。はっきり言えば、音楽ファンの中で一部の人たちからもっぱら売上を得て、業界が食って行こうという話です。客層を選んでいるのです。

 似たようなインターネット調査で、「映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査 2013」は、「2.5%のヘビーユーザーの購入がセル市場の 58.4%を占め」るという結果を得ました。年間3万円以上映像ソフトを買うとしたユーザは2.5%しかいないのに、年間購入額を合計すると58.4%はその人たちが買っている勘定になるというのです。

 アニメ関係のイベントには、明らかにそういう人がいますよね。好きな人、見ている・聞いている人の中で、わずかな人がたくさんのお金を使って市場を支えていることはファンとしても実感します。どうやら音楽産業全般、映像産業全般が、そうした存在を探し、頼るようになってきているようです。

マス向けの商品

 多少ミリタリ界隈とのお付き合いもできてきたのですが、この界隈のディープな方々ももちろん1種類ではありません。

 あるタイプの皆さんは、一次史料を探し回ります(限定配布の私家本などを含む、やや広い意味での一次史料です。厳格な立場の人は、整理されて活字になったらもう一次史料じゃないみたいなことを言いますが)。図書館や古書店、あるいはネットオークションで。この人たちは時に非常に大きな散財をします。「長年のコレクションを丸ごと300万円でどうだ」といったオファーは実際にあるからです。いくらかの人たちは、収入のある激務についていて主に散財をしますし、別の人たちは古書店を回ったり図書館をあさったりして足で稼ぎます。私なんかは書籍を買っては積み買っては積み、自分で新しいことを見つけようとまではしません。ただ「違い」や「分類」といった、広く浅く知らないといけない事柄には詳しくなってきます。

 私は昔、アニソン・特ソンの音源コレクターでした。例えば「ウルトラマンの歌」はコロムビア、「ウルトラマンタロウ」はビクター、「ウルトラマンA」は東芝レコードがオリジナル音源を持っていて、レコード1枚で全部が揃わないわけです。逆に、比較的この種のビジネスに熱心なコロムビアのいろいろな企画盤を買っていると、同じ音源が4枚ダブったりします。そのうち「どんな持ってない音源が入っているか」でレコードを判断し、特に欲しい2曲のために3枚組7800円を買うかどうかで悩んだりしたわけですね。つまり……だんだん普通の、よく売れそうなレコードは買わなくなっていったのです。

 これと同じことがミリタリ界隈にも起こったのだと思います。あるステージまで進んだミリヲタは入門書なんか買いません。そうするとますます入門書がビジネスとして成り立たなくなって、入り口が締まってきます。そうそうホイホイと未発表写真が量産されてくるわけもなし、ミリヲタを満足させるためのコストもまた上がってきて、販売部数とコストの両面からミリタリ出版は苦境に立たされてきたのだと思います。

 そこへ降ってわいたように、ミリタリの入り口を覗いてくれるお客様が100万人単位で現れたわけです。いや、ウソです多分。アカウント転売業者さんとかが多分余分に取ってます。でもまあ100万人に近い数字が出ただけでも、それほど大きくもないミリタリ業界にとっては大きなボーナスです。「『オタク』市場に関する調査結果 2012」によるとプラモデル業界の売り上げは2012年度予測で268億円。オンラインゲーム業界は4290億円。「普通の人たち」のほんの一部がほんの出来心で消費をしただけで、業況は大きく変わります。そして久しぶりに、じっと我慢をしながら萌えミリの衣をまとって初心者向け出版をするしかなかったのが、ああいややっぱり萌えミリの衣はそのままですが、初心者向け解説本の企画が立つようになってきたわけです。

 新たな客層に対する、ミリヲタにとっては要らないミリタリ入門書の新たな市場が(たぶん一時的に)できたのです。どうせこの市場で買う方に回らない人がそれをどう思うかは、このビジネスの成否に影響を与えないはずです。もし何らかの理由でこの動きを批判する人たちがいるなら、まずこれらの出版物を買い、読者アンケートはがきを使って批判をすればよろしかろうと思います。量を揃えれば出版社は動くかもしれませんよ。もちろん何もしなくても、来年にこのブームはどうなっているか誰にも分からないのですが。

市場としてのミリヲタ

「アニヲタなら買わずにはいられないもの」なんてほとんどありませんよね。サイリウム? それもイベントやライブに行かない人には意味がないですし。でも「DVD/BDを年に何BOXも買う人」はいて、そういう人たちにどうアピールするか、アニメを売る人たちは懸命に考えているようです。「映画に週替わりの特典をつければ毎週来る客層」の存在が信じられているから、映画には特典が付きます。それがつかない映画は、そんな客層を当てにしていないのです。

 例えばもっぱら若い美形の女の子たち(または男の子たち)が出てくる映画では、特典を付けるのが当たり前のようになっています。そうした映画によくいく消費者は、そうした映画の特典に関する相場のようなものが頭の中にできて、それと比べて「この映画の特典はショボいな」とか相対的な評価をします。行動経済学ないし心理学で「アンカリング」と呼ばれる現象です。そういった客層を当てにする映画なのに、ショボい特典を付けてしまったら、映画の出来は良くても動員が見劣りする原因になるでしょう。

 地下アイドルのブッキングライブ(主催者が開催日と場所を先に押さえ、参加ユニットを募ったり声をかけたりして行う合同ライブ)に行くと、三脚と高価そうなカメラを持った初老の男性が熱心に写真やビデオを撮っていることがあります。メディアの人かもしれませんし、熱心なファンかもしれません。客層の中にいろいろな属性の人が混じっていても、特定の販売方針に財布を開いてくれるのであれば、売る側は客層内部のばらつきを気にする必要がありません。

 ミリヲタが財布を開くパターンがあるなら、ミリヲタは客層として認知され、同じような販促をする同じような業者さんが群がってくるでしょう。財布を開かないのなら、どれだけ何かを愛していても、市場では傍観者にしかなれません。

 じつは我々が漠然とミリタリ本に分類しているムックでも、多くのものの編集者は駅の売店に置いてもらえるものなら置いてもらいたいと思っていて、ミリヲタじゃない普通のお父さんにも訴求したいと思っているんじゃないでしょうか。黒田長政本の代わりに山口多聞本はいかがですか……といった調子で。もちろんそれならそれに合わせて、題材や語り口の選択は必要になるはずですよね。そうすると客層としてのミリヲタは、とうの昔に当てにされなくなって、一般向けを狙ったミリタリ書を買っていく副次的な客層扱いなのかもしれません。そりゃあ世の中、萌えミリに頼ることを良しとしない編集者・出版社だっているでしょう。今回の艦これブームではお見送りの小旗を振るしかないとしても。

 財布としてのミリクラ。それはどれくらい分厚くて、どういう条件で財布を開くのでしょうね。

ミリクラ度テスト

 次の言葉を説明できますか。というか、知っていますか。

  1. トゥーレ協会
  2. フェルキッシャー・ベオバハター
  3. ショル兄妹
  4. メフォ手形
  5. Stahlhelm, Bund der Frontsoldaten(鉄兜団、前線兵士同盟)
  6. 近接防御兵器(Nahverteidigungswaffe)
  7. シュルツェン
  8. ゲルリヒ砲
  9. 自走臼砲カール
  10. 竜の歯(Drachenz」hne)
  11. 区処
  12. 浸透戦術
  13. カウンター・バッテリー(対砲迫戦)
  14. 間接砲撃
  15. 威力偵察
  16. ショカ=コーラ
  17. ツェルトバーン
  18. Spiess、あるいはHauptfeldwebel(中隊先任下士官)
  19. Stalin Kaput, Hitler Gut!(呼び掛け)
  20. S舅denabwehrkanone

 1~5は「ドイツ近代史」の一般的な書籍や論文に出てくる言葉で、第2次大戦期の模型だけ作っていると一生聞くことはありません。6~10は第2次大戦期の模型やジオラマを作っていると、自分で作らなくても写真、カタログなどで目にしますが、ドイツ史を普通に勉強していると一生耳にも目にもしないかもしれません。11~15は軍事用語で、歴史を普通に勉強していても身につきませんし、模型を作る役にも立ちません。16~20は兵士の生活に関係する言葉です。模型だけ作っている人は、ツェルトバーンと言われても何のことかわからず、ポンチョと言われるとあああれかと分かるでしょう。

 このほかに、メカが好きな延長として軍用機械が好きな人は、避弾径始とか翼面荷重とかいった話が好きかもしれません。じつはミリヲタという概念にはこうした似て非なる分野の好きな人たちがひとつにくくられていて、ミリヲタだというだけでは仲間でもなんでもないのです。ミリヲタが初心者に冷たいなどという人がいますが、むしろ自分の好きな特定部分に他の人を強引に巻きこもうとしたり、自分の代わりに相手にとっては興味のない何かを調べさせようとしたりする「共食い」的なトラブルをよく目にします。

基礎資料


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Last-modified: 2017-08-31 (木) 04:32:18 (1157d)